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小説


リョーマ君の執事

(『メイちゃんの執事』のパロディ、テニプリ版です)

「リョーマ様、リョーマ様、どこにいらっしゃるのですか?」
よく晴れた秋の日、私立青春学園に今日も執事の声が響き渡る。
「どなたかリョーマ様を見かけた方はいらっしゃいませんか?」
執事と言うには若すぎる青年が、青い顔をして、額から汗を流しながら、主人を探して走り回っていた。

深い森に囲まれた学園の敷地はざっと東京ドーム100個分。本人が見つかりたいと思わない限り、探し出せるものではない。もう半日近く主人を捜しまわっていた青年は脱水状態で倒れそうになっていた。
穏やかな昼下がり、青春学園の生徒たちは午後のお茶の時間をまったりとくつろぎながら楽しんでいた。
きらめくシャンデリア、足が3㎝ほども沈むペルシャ織のカーペット。
生徒一人ひとりに肘のあるゆったりとした豪奢なソファ。
部屋の隅には大きな壺のような花瓶に薔薇やカサブランカが活けてあり、
甘い香りを漂わせる。
一見高級ホテルのラウンジのようだが、ここはまちがいなく教室なのである。
開け放した窓の向こうの園庭から『リョーマ様ぁ』という悲壮感を帯びた声だけが、優雅な静寂を台無しにするノイズだった。

「あらら、おチビちゃんはまーだ逃げ回ってんだ。困ったやつ・・・ねぇ大石?」
「本当でございますね、英二様」
モーニングを着た大石と呼ばれた執事がにこやかに頷いた。
ソファに座り、もぐもぐと焼き菓子をほおばっている菊丸英二の後ろで、大石はうやうやしく立っている。

「越前君、また逃げちゃったんだね。ふー、大変だね」
不二周助は、彼も可哀そうにと言いながら、どこか楽しげに微笑んだ。

菊丸は、我関せずでお茶を飲む海堂薫に話しかけた。
「新しい執事もいつまでもつかな?うん、俺はあと三日と見たね。お前はどう思う?」
「・・・」
 菊丸をちらっと睨んで、むっつりと黙りこくる海堂に代わって、執事の乾が答えた。
「恐れながら、薫様の代理で申し上げます、菊丸様。
私のデータによりますと、あと二時間で彼が根をあげる確率百パーセント。
今日中に学園を去る確率90パーセント。」
乾の眼鏡がキランと光った。

「で、出た。データ執事の乾。データじゃなくってもそれくらいわかるじゃん。
けどさ、おチビもよくやるよねぇ」
そうですねぇ、と大石が頷いた。
「新しい執事が来るたびに、姿をくらませたり、いたずらしたり。
入浴される時も中から閉め出して、執事に体を洗わせなかったり、執事の作ったお食事も召し上がらず・・・。本当に執事泣かせな方ですねぇ。
この春に、この学園に入学して以来、これで何人の執事が泣いてやめて行ったことか……」
「私のデータによると約二ヶ月で八人」
「皆、絶望し、執事になる夢をあきらめて故郷にかえっていきました」
「可哀そうに」居合わせた者は全員でふーとため息をついた。

 この青学学園は日本屈指、いや、世界でも類を見ないほどのお金持ちによるお金持ちの子息のための学園である。保護者が学校に寄せる授業料、または寄付金は年間数千万。
学園の私有面積は東京ドームの20個分。
セレブ中のセレブの子息だけが、入学することを許される超エリート養成学校なのである。
金も伝統も持ち合わせた日本屈指の名家の息子たち。
生まれながらにしてトップになることを約束されたエリート中のエリート達。
この学校の特色は、生徒のひとりひとりにお世話係の執事がついていることである。
朝起きてから寝るまでの間、片時も離れることなく、ご令息たちは自分専用の執事に赤子のように世話をされる。
食事も各々の執事が作り主人に食べさせ、髪を梳かし、服を着させ、入浴時は主人の体を洗い流し、授業中でさえも主人の傍らで教科書をめくるのが彼らの仕事で、二十四時間べったりと寄り添う。
『常に執事をそばに置くべし』
執事をつけることは校則である。それはこのエリート達を守るためでもあるのだが。名家の息子ともなれば、誘拐、政敵や一族内の権力争いに巻き込まれ狙われる可能性は高い。
そのため執事はいつ何どきでも主人から目を離してはいけないのだった。彼らはいざとなれば体を張って主人の盾となるように教育されたガードマンでもあるため、様々な武道や訓練を受けていた。
 この学園にいる生徒達は執事にかしずかれる生活をごく当たり前のことと思っていたし、自宅にいるのと変わりなく世話をされ、外出を許されていない禁欲的な生活もそれほど不自由を感じることなく若い春を謳歌していた。
 
 しかし、どんな群れにもブラックシープ(黒い羊)はいるものである。
群れることも群れの規則に従うことを拒む異端児が。
 
 小鳥たちのさえずりが響き渡る誰もいないテニスコート。青春学園のブラックシープ、越前リョーマは規則破りである執事を伴わない一人歩きを楽しんでいた。

コートわきにおかれたベンチに腰かけて、帽子を深くかぶりうたたねをしていた。
十一月の小春日和、柔らかな日ざしについ眠ってしまったのだ。

ここは学園の敷地内だけど校舎からはかなり離れた場所にある。
ある日リョーマが何人目かの執事から逃げている最中に、森の奥に入りすぎて、ウロウロと迷っている時にここを見つけた。
樹木に囲まれた1面だけのひっそりとしたテニスコート。うっそうとした森の中、ここには明るい陽が射し込んでいた。
青春学園はテニスの名門でもあるらしく、なんと学生たちは全員テニス部に所属しているのだ。
そういうわけで学園の敷地内にテニスコートは50面ほどあった。
しかし、校舎というには豪華すぎるお城のような建物からかなり離れたこのコートには誰も訪れる者はいないようだ。皆に忘れられたコートなのかもしれない。

だが、リョーマはこの場所が気に入った。
静かで暖かくて、何よりも一人になれるからだ。誰にも見つかる心配はない。
今頃リョーマを必死で探しているだろう9人目の執事もここまでは来ない。

リョーマはこの秋から青春学園に入学した。父越前南次郎に無理やりいれられたのだ。
しかし父から学園の内情については何も知らされておらず、入学からは驚きの連続だった。。何もかもが普通ではないからだ。
豪華な校舎も、無駄に贅沢な設備も、東京ドーム20個分という広すぎる敷地にも、そして一日中べったりとくっついてくる執事という存在にも。
ここの生活に慣れきった金持ちの息子たちにもものすごく違和感を覚えた。
リョーマはここに来るまでは普通の公立中学に通う一般庶民の子弟であったからだ。

というのも、リョーマの父の事情による。父南次郎は由緒ある越前家の跡取り息子であったが、自由奔放な性格で窮屈を嫌い、十数年前に家督を譲り家を出た。
というか、ある日家を飛び出したきり、戻らなかったのだ。そしてそのまま、庶民的な家庭を築きリョーマが生まれたというわけだ。
しかし、ここに来て、越前家の方で家督争いが起こった。次期後継者争いである。候補者は何人かいたが、イマイチ決まらない。そこで家を出たはずの南次郎に再び白羽の矢が立った。
『南次郎を呼び戻せ』
家に戻るように、と本家の執拗な攻勢に閉口した南次郎は、『俺のことは勘弁してくれ、その代わりに』と、あろうことか自分の身代りに、息子のリョーマを越前家に差し出したのだった。
リョーマは次代の越前家の当主となるにふさわしい教育をうけるために、このラグジュアリーな青春学園に入れられた。

(くっそー、オヤジのやつ)
ごく普通の子どもとして地元の中学校に通っていたリョーマは、夏休みが終わると同時に無理やりこの学園に入学されられた。
その時になってはじめて家の事情を知ったが、財閥の後継ぎと言われてもうれしくなかった。
ごく普通の中学での部活動に夢中だったのだ。テニス部に。
ものぐさな南次郎だが、テニスだけは幼いリョーマに教え込んだ。
そのかいあって、リョーマは中学では一年生ながらずっとレギュラーとして活躍していた。
なのに無理やり転校させられたのだ。
しかもこの学園と来たら、(校舎大きすぎ、校庭広すぎ、それに……執事)

『えっ、ひつじ?』
『し・つ・じ、執事でございます。リョーマ様』
入学するなり執事と名乗る青年がくっついてきてびっくりした。
朝は目覚まし代わりに執事に起こされる。食事中も横にはりついて世話をし、リョーマの髪をとかしてセットをするのも執事。
楽といえば楽なのだが、リョーマにとっては迷惑な方が多かった。
お風呂は特にそうだ。
『お背中をお流しします』と、執事の柔らかなリョーマの素肌に触れた時はぞっとして鳥肌がたった。
『触わるな』と、思わず彼の手を振り払ってしまった。彼は自分の仕事をしていただけなのだったが。
他人に肌を触られるのは嫌いだった。しかも、よく知らない人間に。
トイレの中までついてきそうな勢いの執事には本当に閉口した。
(一人になりたい)人生で初めてそう思った。
一人でいる自由が欲しかった。
リョーマは自分を身代りに差し出した父に腹を立て、この常識はずれの学園にも、まとわりついてくる執事にも腹をたてていた。他の生徒たちのこともイマイチ理解できない。
風呂で体を洗ったり、髪を乾かし、セットし、服も着せてもらう。食事も執事の手より食べさせてもらう。
こういったことをあたりまえだと思っている他の生徒たちがとても奇妙に感じられた。
(金持ちの子どもってよくわからない。)
執事というのは赤ん坊を世話する母親のようだ。ただし、相手は決して小さな子どもではない。食事の時など大きななりした青年が執事に口をふいてもらったりする様子を見ているとリョーマは(こいつらアホなのか?)と思ってしまう。
もっとも手際のよい母親がいれば、不器用な母親もいるように執事も様々だ。
てきばきと片付けてくれる執事を持ったものはストレスなく生活できるし、モタモタと手際の悪い執事にイライラしている青年もいた。。
セレブの子息と言っても、彼らがいかに快適な生活を送れるかは、執事の手腕にかかっているのだ。
というわけで、執事はその能力からAからGまでのグレードにわけられる。
執事は検定試験があり、教養、知識、語学力、料理、格闘技、多岐にわたる教科がある。それだけではない。
執事の素質とは、つまり主人にたいする忠誠心につきる。
このテストでは測りがたい素質も大切な評価の対象であった。
執事のグレードで主人のランクも決まると言って過言ではない。Aランクの最高級の執事を持てるものは選ばれた一握りの人間である。そして、Aランクにもなると自分の仕える主人は自分で決めることができる。
Gランクは見習いである。一人前とは見なされず、見習い執事として、先輩執事の下で修業しなければならない。
そして、Sランクという特別なグレードもある。しかし、現実にはSランクの執事は存在せず、ほぼ伝説と化していた。
だが、みな憧れている。伝説のSランクの執事、誰もが欲しがり、誰もがうらやむ超最高級の執事。
しかし、何ランクだろうがリョーマにはまったく関係ない。入学して2か月、リョーマの執事になった者は、リョーマの思惑通り、次々と学園を去って行った。
今頃、9人目の執事も泣きながら部屋で荷物をまとめているだろう。
しかし、どんなに追っ払っても追っ払っても、懲りない越前本家は次々と執事達を送り込んでくる。
リョーマも、いい加減に嫌になってきた。
(逃げてやる)リョーマは脱走計画を秘かに練っているところだ。
学園の敷地内を歩き回って脱走ルートを考え、こっそり保存のきく食料を備蓄して来た。
今日も脱走ルートを探して、広い森の中を歩き回り疲れ果てた。
そして、このテニスコートにたどりついて一休みしたら、爆睡してしまったようだ。

「起きなさい。お風邪をひきますよ」
耳元で声が聞こえた。
リョーマはまどろみながら、低くてよく通る声を聴いた。
眠たげにまぶたをこすりながら見上げると、背の高い青年がリョーマを見ていた。
あまり表情のない整った顔に切れ長の目をしている。
少し長い前髪が風に吹かれて、ラケットバックを担いで立っている。
(誰だろう、見たことない顔だけど)
生徒か先生か執事。ここにはその三種類の人間しかいない。だが、彼はそのどこにも属していないように思われた。
「テニスをしに来たのですが、他には誰もいないようだ」と彼は言った。
「よろしかったらお相手していただけますか?」
テニスの試合ならどんな時でもOKだ。
「別に、やってもいいけど」
リョーマがそう言うと、彼はかすかに微笑んだように見えた。
「ではどうぞ、お手柔らかに」

(へぇ、やるじゃん)
思いのほか、青年はテニスが上手かった。
きれいなフォーム、正確で速く強いストローク。
「アンタ、なかなかやるね」リョーマは笑った。
どうも、といいながら相変わらず彼は無表情だった。
彼の打つボールを自分のラケットでとらえた瞬間にびりびりとしびれるような衝撃を感じる。。
楽しい。心が躍る。血が湧きたつ。
こんなに思い切り打ったのは父南次郎と対戦して以来だ。強い相手と打ち合える爽快感。
「まだまだだね」
とリョーマは上にあがった甘いボールを叩き、相手のコートにスマッシュを決めた。
「まいりました。お上手ですね」
 彼が握手を求めてきた。
「アンタもなかなか、やるじゃん」
「それはどうも」
去り際にリョーマは声をかけた。
「ねぇ、またやろうよ」
青年は頷いた。
「いずれまたお会いいたしましょう。越前リョーマ様」
そう言って森の中に消えて行った。
彼はリョーマの名を呼んだ。
(オレのこと知ってたんだ。何者だったんだろう?)
後で誰かに聞いてみよう、と思った。


「越前君、かくれんぼ上手だね」
「不二先輩・・・」
リョーマが学園に戻った時、園庭の花壇に不二周助がいた。
彼は足が不自由なので車椅子で生活している。身体が不自由であっても卑屈なところはひとつもなく、いつも穏やかで生徒たちに好かれていた。
瞼は慈悲深い菩薩のように伏せ気味で優しい表情をしているのだ。
今日は白いバラの花束を胸に抱いていた。執事の河村が寄り添うように車いすを押している。
「彼、さっき荷物をまとめて出て行ったよ」
彼、とはリョーマの9人目の執事のことだ。
リョーマは首をすくめた。ちりっと胸の奥に罪悪感を感じた。
「しかたがないよ」不二は優しく微笑んだ。
「相性って大切だから。ね、タカさん?」
「はい」河村は微笑みながら頷いた。
「ああ、今日は天気がよくて気持ちがいいね。」
十一月、晩秋の空は青く澄んで、確かにすがすがしい。
花の咲き乱れる園庭は甘く清浄な香りに包まれている。学園の中庭には、秋なのになぜがバラが咲き乱れている。
(バラって秋咲くんだっけ?よく知らないけど)
リョーマの気持ちを読んだように不二は言った。
「このバラ達きれいでしょう?タカさんがね、一生懸命手入れしてくれているんだよ。ね、タカさん?」
「周助様は白バラがお好きですから」
執事の河村は遠慮がちに言った。
「うん、大好きだよ。ありがとう、タカさん」
河村は、とんでもない、というようにブンブンと首を振り、不二が河村の腕に手をおくと、二人は目を合わせて微笑み合った。
(へぇ、仲がいいんだな)
不二と河村、リョーマは仲睦まじいこの主従が嫌いではなかった。
「越前君は、この学園が嫌いなの?」
「えっ、いや、そんなことはないですけど・・・」
考えると別にこの学園が嫌いなのではない。違和感はぬぐえないけど。
「ふふ、そう?なら、よかった。だってね、みんな君のこと好きなんだよ。ねぇ、タカさん?」
「はい、周助様。越前様は元気がよくてお可愛らしいので皆様に好かれておいでです。」
「えっ。そうなの?」
リョーマは自分が皆に好かれているとは思ったこともない。
言うまでもなく、良家の子息ばかり集まるこの学園では浮いている存在だと自覚している。
(それしても、なに、このまったり感)
不二と河村、二人ともあまりにも穏やかだ。とてもギラギラした十代の若者の雰囲気ではない。まるでそう、長年連れ添った夫婦のようだ。
「でも……オレ、執事は要らないんだよね」
リョーマがぼそりとつぶやくと、不二は首をかしげた。
「そう?でもね、君はまだ自分にぴったりの執事に出会ってないだけじゃないかな?ねぇ、越前君」
不二は手をのばすと、指先でリョーマの頬に触れた。
「主人と執事っていうのはね、主従関係だけど、でも対等な関係なんだよ。お互いが必要なんだ。ソウルメイトとでいうか、魂で結ばれていて、お互いに引かれあうんだよ。もし、そんな執事に出会ったら……」
そう言いかけて、不二は黙ってしまった。もどかしくなってリョーマはたずねた。
「出会ったら?」
「うん、そうだね……」
不思議な眼差しで不二はリョーマを見つめた。
謎めいて艶っぽい瞳。しっとりと赤い唇。
うわっ、とリョーマは思った。なんだかドキドキした。相手は男なのだが。
「きっと出会えばわかるよ、君にも」
不二はにっこり笑った。
「はい、君にも一本おすそわけ。タカさんのバラ」
そういって不二は手に持っていた白いバラの花束から一本取ってくれた。
白いバラは優しい匂いがした。河村が不二のために心をこめて育てたバラだ。
(主人と執事かぁ)
リョーマはバラの匂いを吸いこんだ。


「もー、ヤダぁ。この下手くそ、バカ桃」
ホテルのロビーのような教室から菊丸の喚き声が聞こえた。
「むー。もう怒った。なんだよ、この髪は」
「あー、すいません。でもクリンクリンにって」
「クリンクリンはクリンクリンでもソトマキきなんだよ。外にクリンってはねるのがオレのチャームポイント。ウチマキじゃない!大石ぃ、なおして」
菊丸がヘアスタイルのことで何か文句を言っていた。

いつもは外にクルンと跳ねている菊丸の毛先がくるくるとウチマキになっている。
確かに違和感があるな、とリョーマも思った。
だが、違和感はそれだけではなかった。
怒りまくる菊丸に恐縮してデカイ体を小さく折って、困ったように頭をカリカリ掻いている青年に見覚えがあったのだ。あれは……
「桃先輩!なんでいるの?」
桃城武、リョーマの1つ年上の幼馴染で前の中学の先輩。
兄弟のいないリョーマにとって、桃城は兄貴のような存在だった。
喧嘩したり、テニスしたり。生意気なリョーマが年上の少年たちにからまれているとかばってくれたり。

「おお、リョーマじゃねーか。おまえ、どこ行ってたんだよ」
「俺はちょっと・・・っていうか、桃先輩こそなんでここに?」
リョーマはあきらかに場違いなこの幼馴染に出現に面喰っていた。
桃城はリョーマの顔を見て、うれしそうだった。
「おお、実はな、越前のオヤジさんが勧めてくれたんだ。働きながら学校に行けるからって。まさか、こんなすごい学校で、まさか仕事が執事だとは思わなかったけどな」
そう言って、ワハハと豪快に笑った。
「桃先輩が執事……オヤジが勧めたの?」
「そう、オヤジさんに『慣れない環境で頑張ってるリョーマを支えてやってほしい』って頼まれてな。それに働きながら学費や食費の面倒までみてくれるってありがたい話だぜ」
(やられたっ)リョーマは愕然とした。
(やりやがったな、くそオヤジ)
おそらくこういうことだ。桃城の家は兄弟も多く暮らしは決して楽ではない。
桃城がこの学園に入って執事として働きながら勉強ができるなら、桃城家は経済的にどれだけ助かるだろう。
しかし、それはおそらくリョーマがここに、この学園にいることが条件なのだ。
リョーマが学園を脱走したら、桃城も学園にはいられないだろう。
南次郎はリョーマに足かせをはめたのだ。
(くそオヤジ。ひきょうなマネしやがって)
「おチビー。この見習い、おまえの友達なんだって?執事に向いてないよ。おれも大石も大迷惑~」
ぷんぷんむくれる菊丸を大石がなだめた。
「まぁまぁ、英二様。誰もが最初からうまくいくわけではありませんから。私がしっかり指導しますから」
菊丸はぷくっと頬を膨らませた。
「大石がそういうなら。でも、あんま大石に迷惑かけるなよ、見習い」
「あざーす。お世話になります。ご指導宜しくお願いします。」
桃城は菊丸と大石に頭を下げた。

 兄貴のような桃城がそばにいてくれるのは正直うれしい。
けれど、そのためリョーマは身動きが取れなくなった。
(とりあえず、脱走計画は中止だ)
リョーマは、しばらくはここで我慢しかない、と腹を括った。
問題は次の執事、10人目の執事のことだが……

「越前リョーマ!」
考え事をしていたら、いきなり偉そうな声がリョーマを呼んだ。
(ちっ、来やがった)
この学園で一番苦手なヤツだ。リョーマは知らんぷりすることに決めた。
「帝王だ」
「跡部様だ」
まわりの生徒たちからざわめきが起こった。
リョーマが聞こえないふりをしていると、声の主はずんずん近づいてきた。
まわりの生徒が気を使って跡部の通り道を開けていた。
「越前リョーマ、体もちっこいが、耳もちっこいのか?アーン?可哀そうになぁ」
なぁ、ユーシ、と後ろにいる青年に声をかけた。
ユーシと呼ばれた青年が後ろに控えていた。
黒い縁の眼鏡をかけ、艶やかな黒髪を肩までのばし、ノーブルなたたずまいだ。
「圭吾様」
ユーシは冷ややかな微笑みを顔に貼り付けているようだった。
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プロフィール

プロフィール画像
ニックネーム
うり
性別
腐女子
血液型
B型
自己紹介
本が大好きな主婦です。黒子のバスケなんかの二次小説を書いています。
趣味
犬と遊ぶこと。映画を観ること。音楽を聴くこと。走ること、と言いたいが、最近走れない…
特技
動物には好かれる方
職業
事務職
座右の銘
人事を尽くして神様にお願いする

ブログ

日月火水木金土
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